26.MAR.’13


3月26日。この一、二週間の季節外れな暖かさで、東京のソメイヨシノも近年に類を見ないほど早い満開を迎えたが、ここにきて再び寒さが戻ってきた。時計の針も零時を廻ると、外気はより冷たさを帯びて、きっと気温は一ケタ台にまで下がっているのだろう。“ 花冷え ”や“ 寒の戻り ”なんていう洒落た言葉もあるが、恐らく今日の寒さはそれらに当てはまらない。むしろここ暫くが暖かすぎただけで、この時期の気候は本来こんなものだ。
新緑も海の青さも、紅葉も銀世界も、日本の四季折々の風景はすべからく美しいが、桜の頃はまた格別だ。様々な季節の風物詩の中で、期間の短さに於いて突出しているのも何やら有難みを感じさせる理由の一つには違いなかろう。満開の桜並木の下で、花を見上げずに道を往ける人は、多分少ない。出逢いと別れの季節に、一年で最も待ち遠しいほんの数日間。微かな胸の傷みと共に、想い出す恋しい横顔が誰しも一つぐらいはあるだろう。


穏やかな陽射しの下、惜しまれつつ散り逝く桜も美しいのだが、やはり個人的には咲き誇る夜桜である。場所でいうなら人里離れた山奥か、墓地や神社仏閣か。この世ならざる場所に誘われそうな光景が、幽玄な夜桜を得て現出する。そして、夜のそうした場所は総じて人気が乏しいのも魅力の一つである。湯気さえ立ちのぼるスープ皿を残して忽然と消えた幽霊船マリー・セレスト号の乗員達の様に、まるで自分独りを残して世界から人類が消滅したかの様な気分になれるのもいい。


朧月夜に、墓場の桜と黒いバイク。この上なくロマンチックな組合せ・・・に思える。あくまで個人的に。今週末、きっと東京の桜はもう散り頃だろう。



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